会社員(34)、DQN6〜7人に車を囲まれる→逃げようと車全力発進→DQN、車に900mしがみつく→殺人未遂で逮捕
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1710720.html


いろいろ思うことがあったので記事にしたいと思います。書き込みなんかを見てたら結構みんな知らないんだなと思ったので。

長文ですのでどうでもいいと思った方はここで戻るを押すことをお勧めします。観戦記時並みの長さです。

一応法曹志望の人間が書いてますので、嘘八百を並べるつもりはないですが、まだまだプロじゃない(というか日本の場合弁護士の話を信じても違法性は阻却されないわけですが)ので間違った部分も多分に含まれると思います。そこはコメントなんかで指摘していただけると助かります。




閑話休題


刑法というか法律はたいていそうなんですが、条文には「(構成)要件がそろうと効果が発生するぜ!」と書かれています。めっちゃくちゃ大雑把にいいましたが、条文に直接書いてることのほとんどがそうなのです(当然ですが例外もあります)。

例えば、民法709条を考えてみましょう

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

いわゆる不法行為の規定ですね。こいつがあるので被害者は、損害賠償を請求できますし、加害者は被害を与えた分しか賠償しなくてもよいとなります。

直接この条文に書かれていることは、
①故意または過失
②によって(故意過失と権利侵害との因果関係を表している)
③他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、
④これによって(権利侵害と損害の因果関係を表している)
⑤生じた損害
ここまでが要件(それぞれを故意過失、因果関係、権利侵害、損害と言われたりします)
⑥を賠償する責任を負う。
これが効果です。
大雑把にいうと「あんたに故意か過失(があったことを証明する事実)があって、あいつの権利を侵害してて、損害を発生させて、それぞれに因果関係があったら、ちゃんとその分だけ賠償しろよ」となります。

実際は条文に直接書かれていないことが要件に加わったりしててめんどくさいことがあったり、この条文つかえねといって、素人目では要件がそろってそうな場面でも違う条文を使ったりするのが非常に厄介なんですがね…。とりあえずここでは条文の基本構造としての要件と効果を理解していただければ結構です。



さて本件で問題になっている刑法199条を見てみましょう

第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

今回は未遂の事例ですので同法203条(未遂規定)あたりも絡んできますが、ちょっとめんどくさいので省略。またの機会があれば。

この条文から読み取れることは何でしょうか?
非常に抽象的な問いですが、少し原理原則的な説明が必要になります。


そもそも刑法の条文には二つの意味が込められていると言われています。(もちろん異説あり)
一つ目が行為規範と呼ばれるものです。簡単にいうと「殺そうと思って人殺したらこいう罪で罰するからやるなよ〜」という意味。つまり一般国民に対して何をしたらどれくらい処罰されるのかを明示している、といわれています。
二つ目が裁判規範と呼ばれるものです。刑法の条文は国民だけを対象とするわけではありません、同時に裁判官を拘束しているのです。裁判官に対して「被告人が犯罪をしたといっても、ここで決めた罰しか加えちゃいかんからな!」ということをこの条文は言っているのです。刑法の場合は極刑の死刑があるので若干分かりにくいですが、例えば、ただの窃盗犯なのに死刑にされては困りますよね?なぜ死刑にされないかというと、刑法235条で窃盗罪は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されているからなのです。
(実際はこの機能がかなり問題になる刑罰規定がいくつかありまして、例えば強姦致死罪なんかは、この不都合を回避するために結構無茶な解釈がなされています。強姦致死罪ってその条文規定だけでは死刑にできないんですよ、強盗致死罪はできるのに。なので強姦致死の場合は強姦致死罪と殺人罪の併合罪と処理するのが判例の立場となっています。あと違憲判決で有名な尊属殺の事件は、刑が無期懲役または死刑しかないことを違憲として、有期懲役刑に処したうえで執行猶予としました。無期懲役だと執行猶予付けれないことを裁判所は問題としたのです。)

ここで理解していただきたいのは刑法の条文の意義というか刑法の意義そのものです。つまり、刑法典には「条文で書いてることやったらこれだけの罰があるからするなよ〜」と書かれてるというのを理解していただけたら十分です。あとあとでちょっとだけ問題になるので。

ちょっと横道にそれました。話を戻しましょう。
先ほども述べたように法律の条文は要件(刑法学では構成要件なんて言います)と効果について書かれています。なので「この条文から読み取れることは何でしょう」という問いの直接的な答えは『(構成)要件と効果』です。
加えて言いますと、刑法学においては構成要件に該当するってことは、そいつの行為は違法で、そいつは有責なんだなと考えられます。
これを構成要件該当性の違法有責推定機能と言います。
(ここでさらっと有責推定機能を入れましたがこれを構成要件該当性に含めるかは、大きな大きな大きな対立があります。というかおざっぱに言うと刑法学における対立のほとんどはここらへんの理解を出発点にして始まります。刑法学の対立はそれはそれで面白いのでまた違う機会で論じたいものです。)
『推定』というのが肝です。法律用語で推定というと、反対の事実が証明されるとその推定がひっくり返ると理解していただいて結構です。(一方で法律用語で『みなす』というものがありますが、『推定』とは若干ニュアンスが違いますから注意が必要です。みなし規定は反対事実の証明だけではひっくり返らないのです。)

大雑把にいうと刑法の問題は
構成要件該当性(ここで違法性と有責性が推定)

違法性(ここで本当に違法な行為だったかを考える)

有責性(ここで本当に刑罰を処せるほどの責任能力があったかどうかを考える)
この順番で考えて処理されます。
つまりまず最初に構成要件に該当しているかどうか(そもそも構成要件に何を含めるのかというのが一つ一つの罪、考え方等で違ってくるのでそこらへんが解釈の腕の見せ所ですね)を考え、そのあとに推定された違法性をひっくり返すものがないか?や、この被告人は責任を問うべきではないんじゃないか?なんかを考えるわけです。
さてこの違法性を考える際に出てくるのが正当防衛、刑法36条ですね。

第36条
1.急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2.防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

正当防衛やその前後に規定されている正当行為(同法35条)、緊急避難(同法37条)をまとめて違法性阻却事由なんて言います。違法性段階ではこいつらが適用できないかを主に考慮するわけです。違法性阻却の意義の内の一つは、先ほど述べました、刑法の行為規範性から来ています。国民に対して、これこれしたら処罰するぞーと脅しをかけるのが刑法ですから、裏でまぁこいつはしょうがなくやったんだなとか、これできないと被害を蒙むることになって不正義を推奨することになっちゃうな、といったものを違法性がないから許すとするわけです。そうしないと社会的に不都合が生じてしまいます。簡単にいうと、違法性阻却の規定がないと医者は手術をすると処罰される可能性が出てきます(そういえば大昔天皇陛下を手術する段階で刑法的な問題が生じたこともあります。当たり前のことを当たり前である所以を考えるのも法律学の醍醐味です)。

ただ、攻撃してくるやつがいて反撃したらいつでも正当防衛が成立して構成要件に該当しないから無罪、となるわけではありません。なぜかというと先ほどの思考の順番(構成要件該当性→違法性→有責性)からもわかるとおり違法性が阻却されるのは例外的な場合のみだからです。刑法は例外的に正当防衛を認めることで、「私刑はいつもやっていいというわけではない」と言っているわけです。私刑を認めてしまうと近代国家としての日本が崩壊するのは目に見えています、あくまで人を処罰していいのは国家のみなのです。

ですから今回の事件のようにいくら正当防衛だろ!と認められる事例でも、一通り捜査は必要(むしろ警察官がここで勝手に捜査をやめることのほうが問題)ですし、起訴まで行くかもしれません(公訴権は検察が独占しているので、するかしないかは基本的に検察の裁量の問題です)。そして裁判になって、違法性阻却事由として正当防衛を主張することで被告人の行為に違法性がないとこを主張することになります。もちろん認められれば違法性がない行為だったと考えられるので無罪になります。こうやってようやく正当防衛は認められるのです。

今回の事件についてすこし言及すれば、実際の資料を見ていないので正当防衛が認められるかは明言できないのですが、同じように襲撃から逃げ、反攻するために車で相手を轢いて怪我を負わせた事例で正当防衛が認められた裁判例(大阪高裁平成14年9月4日判決)もあるので認められるんじゃないかなぁと思います。(ただこの判例、一緒に逃げようとした兄弟をひき殺してしまったという非常に難しい事例なのですが…)


まぁ何が言いたいかというと正当防衛だろうが裁判にかけられるのは普通にあることで、この警察の対応はなんら間違ったものではないということです。

















今回できるだけわかりやすい言葉で説明しましたが、ここわかんねーよとかここ間違っている!といったコメントは大歓迎です。よろしくお願いします。

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