男山本、かく語りき第二回
2012年5月6日 日常 コメント (6)ここ最近交通事故のニュースが非常に多いですね。まぁ実際はもっと身の回りで起きているんでしょうけどね>交通事故。今回はそんな交通事故にかかわるちょっと興味深い話を何回かに分けてしていこうかと思います。
まずは、適用条文ですね。特別法(自賠責法とか)も色々絡んできますが、民事的な処理には不法行為、条文は民法709条、これを軸に考えていきます。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
709条の要件は
故意過失、因果関係、権利侵害、損害
でした。さて交通事故訴訟で主に問題になるのが損害や因果関係についてです。今日はこのあたりの要件論について詳しくやっていこうかと思います。
一口に損害といってもなにを指すのでしょうか?
よく教科書に載っている事例としては、飛行機のパイロットが交通事故で目を怪我したためにアメリカの名医のところまでいって治療した場合はいったいいくら払わないといけないのか?なんて書かれています。
通説はこれに関して差額説という考え方を採用します。どういう考え方かというと
被害のある前の財産状態ー被害のあった後の財産状態=損害
となります。
差額説の肝は、損害≒賠償額となる点です。
そしてさらに差額計算においては治療費や、交通費、修理費、将来得られたであろう収入の減少等個別の項目を立て、項目ごとの金額を足し合わせて計算されます。ここでいったいどこまでの損害項目を加えていいのだろうか?という問題です。
通説では要件の一つの因果関係を持ってきて、『相当因果関係の範囲ないならば損害と認められる』とするわけです。
さて因果関係といいますと「AなければBなし」という考えるのが一般的でしょう(これを条件関係式とか事実的因果関係なんて言ったりします)。
相当因果関係においては、この事実的因果関係が成立することを前提とします。そして民法の416条を持ってきて因果関係の限界を設定しようとします。
第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
本来416条は契約責任に関する規定(415条)の直後にあるわけですから不法行為責任に適用するのは望ましくありません。しかしその考え方だけでもいいから利用しようとするわけです。このような条文解釈を類推解釈(≠拡大解釈)なんて言います。ここら辺は後で出てきますので、覚えといてください。
さて、416条の条文そのものに注目してみましょう。1項は通常損害、2項は特別損害の規定です。416条を不法行為に当てはめると、事故を起こして被害を加えてしまったとき、普通に起きるよな~という損害を通常損害としてこれは必ず賠償しなければなりません。しかし、いやいやそんなの普通わからないよなんという損害は特別損害として、予見できるかもしくは加害者が特に知っていた場合を除いて因果関係がないので損害に含めないとするわけです。
たとえば特別損害として除外されそうなのが、事故後病院に運ばれて医師の『重大な』過誤があった場合ですとか、事故後、精神的ショックから自殺した場合とかでしょうか。
いくら被害を与えた人間だろうがあくまで責任を持つのは一般人にとって理解できる範囲までですませないと誰も安心して車を運転できなくなってしまいます。
不法行為には人に賠償させる法であると同時に、人に行動の自由を認める法でもあるのです。
まとめると相当因果関係では、基本的に被害があってそれ以降の広がっていく損害に限界づけをできるという点で非常に有効です。
でも限界づけが必要なのは事後だけではなくその事故があったタイミングでもあるはずですよね?
例えば、車を運転中に、自転車を引いてしまったけど、こちらは交通規制を順守していて向こうが飛び出してきただけだ。という時にまでその被害者の損害をすべて賠償させるのはこれも加害者に非常に重い責任を認めてしますことになります。ここでと登場する条文が過失相殺規定です。722条2項を見てみましょう。
第722条
2.被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
つまり飛び出してきた自転車の過失を斟酌して賠償額を減らしてしまうわけです。例えば車と自転車のそれぞれ7:3の過失割合が認められたら賠償額も7割に減額されるわけですね。
ちなみに、賠償額の減額をできる条文は民法典を探してもこの規定しかありません。なので非常に重要というか今日もう一度出てきます。
さて事故の時または事故の後の損害賠償の限界付はできてきました。ところが実はまだ問題が残っています。それは事故の前に起きた事象だったりもともとあった性質が、加害者の与えた損害に大きな影響を思っている場合は考えられないでしょうか?
それが問題となった事件が最高裁昭和63年4月21日判決民集42巻4号243頁事件。
この事件、被害者の方が本来全治50日程度の怪我(鞭打ち)を負うのですが、本人いわくまったく治らないということで10年もの間治療を行った事例です。単純な怪我ですから間違いなく通常損害であって特別損害ではありません。よって相当因果関係による限定では全額の賠償が必要となります。
最高裁はどういった判断をしたかというと、被害者の治らないという訴えを心的素因として、それを理由に過失相殺規定を類推適用(あくまで類推)し、賠償額の減額を認めました。
ついで最高裁平成4年6月25日民集46巻4号400頁事件で素因が問題となります。今回はタクシードライバーが後ろから衝突されて、その事故により死亡するのですが、どうやら単純に本件事故による損傷だけで死んだわけではないことが発覚します。実は被害者のタクシードライバーは事故の前の日に、車の中での居眠り中一酸化炭素中毒で脳に損壊を受けていたのです(雪が積もったせいで排気ガスが車内に蔓延したため)。この事故以前から有していた脳の損壊に、事故の被害が組み合わさったために死亡という結果が発生したというわけです。これに関してもやはり被害自体は通常損害ですから、原則通り適用していけば加害者は被害者の死亡という結果の責任を負うことになります。しかし、最高裁はここでも被害者には身体的素因があったために損害が拡大したとして722条2項を類推適用し、賠償額の減額を認めました。
さてここまでの理解だと、被害者に何らかの素因があるならば、それによって過失相殺を類推適用できそうだ、というのが単純な理解でしょう。
しかし、最高裁は、その過失相殺を類推適用できる素因に限界づけをします。
その限界づけがされたといわれるのが、最高裁平成8年10月29日判決民集50巻9号2474頁事件です。
この事件被害者は重度のむち打ち症を負ってしまいます。しかし普通の人はそうはならなそうな事故でした。なぜ被害者が重度のむち打ち症を負ったかというと、それはただ首が長いという理由だけでした…(よってこの事件は首長事件なんて言われます、被害者は女性なんだからもっとましな名前つけろよとは思うんですがね…)。最高裁は以下のように判示して身体的素因ではない身体的特徴による損害の拡大の責任は被害者ではなく加害者が負担せよ(賠償せよ)としました。
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」
(判決文は少し読みにくいですね。「けだし」は「つまり」と読むといいでしょう。)
したがって通常身体的特徴としたものが原因で被害が拡大したとしても、それをあるがままに受け入れて賠償しなければないとなります(この判決文を読む限り重度の肥満の方に関しては若干の留意が必要そうですがw)。
まずは、適用条文ですね。特別法(自賠責法とか)も色々絡んできますが、民事的な処理には不法行為、条文は民法709条、これを軸に考えていきます。
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
709条の要件は
故意過失、因果関係、権利侵害、損害
でした。さて交通事故訴訟で主に問題になるのが損害や因果関係についてです。今日はこのあたりの要件論について詳しくやっていこうかと思います。
一口に損害といってもなにを指すのでしょうか?
よく教科書に載っている事例としては、飛行機のパイロットが交通事故で目を怪我したためにアメリカの名医のところまでいって治療した場合はいったいいくら払わないといけないのか?なんて書かれています。
通説はこれに関して差額説という考え方を採用します。どういう考え方かというと
被害のある前の財産状態ー被害のあった後の財産状態=損害
となります。
差額説の肝は、損害≒賠償額となる点です。
そしてさらに差額計算においては治療費や、交通費、修理費、将来得られたであろう収入の減少等個別の項目を立て、項目ごとの金額を足し合わせて計算されます。ここでいったいどこまでの損害項目を加えていいのだろうか?という問題です。
通説では要件の一つの因果関係を持ってきて、『相当因果関係の範囲ないならば損害と認められる』とするわけです。
さて因果関係といいますと「AなければBなし」という考えるのが一般的でしょう(これを条件関係式とか事実的因果関係なんて言ったりします)。
相当因果関係においては、この事実的因果関係が成立することを前提とします。そして民法の416条を持ってきて因果関係の限界を設定しようとします。
第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
本来416条は契約責任に関する規定(415条)の直後にあるわけですから不法行為責任に適用するのは望ましくありません。しかしその考え方だけでもいいから利用しようとするわけです。このような条文解釈を類推解釈(≠拡大解釈)なんて言います。ここら辺は後で出てきますので、覚えといてください。
さて、416条の条文そのものに注目してみましょう。1項は通常損害、2項は特別損害の規定です。416条を不法行為に当てはめると、事故を起こして被害を加えてしまったとき、普通に起きるよな~という損害を通常損害としてこれは必ず賠償しなければなりません。しかし、いやいやそんなの普通わからないよなんという損害は特別損害として、予見できるかもしくは加害者が特に知っていた場合を除いて因果関係がないので損害に含めないとするわけです。
たとえば特別損害として除外されそうなのが、事故後病院に運ばれて医師の『重大な』過誤があった場合ですとか、事故後、精神的ショックから自殺した場合とかでしょうか。
いくら被害を与えた人間だろうがあくまで責任を持つのは一般人にとって理解できる範囲までですませないと誰も安心して車を運転できなくなってしまいます。
不法行為には人に賠償させる法であると同時に、人に行動の自由を認める法でもあるのです。
まとめると相当因果関係では、基本的に被害があってそれ以降の広がっていく損害に限界づけをできるという点で非常に有効です。
でも限界づけが必要なのは事後だけではなくその事故があったタイミングでもあるはずですよね?
例えば、車を運転中に、自転車を引いてしまったけど、こちらは交通規制を順守していて向こうが飛び出してきただけだ。という時にまでその被害者の損害をすべて賠償させるのはこれも加害者に非常に重い責任を認めてしますことになります。ここでと登場する条文が過失相殺規定です。722条2項を見てみましょう。
第722条
2.被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
つまり飛び出してきた自転車の過失を斟酌して賠償額を減らしてしまうわけです。例えば車と自転車のそれぞれ7:3の過失割合が認められたら賠償額も7割に減額されるわけですね。
ちなみに、賠償額の減額をできる条文は民法典を探してもこの規定しかありません。なので非常に重要というか今日もう一度出てきます。
さて事故の時または事故の後の損害賠償の限界付はできてきました。ところが実はまだ問題が残っています。それは事故の前に起きた事象だったりもともとあった性質が、加害者の与えた損害に大きな影響を思っている場合は考えられないでしょうか?
それが問題となった事件が最高裁昭和63年4月21日判決民集42巻4号243頁事件。
この事件、被害者の方が本来全治50日程度の怪我(鞭打ち)を負うのですが、本人いわくまったく治らないということで10年もの間治療を行った事例です。単純な怪我ですから間違いなく通常損害であって特別損害ではありません。よって相当因果関係による限定では全額の賠償が必要となります。
最高裁はどういった判断をしたかというと、被害者の治らないという訴えを心的素因として、それを理由に過失相殺規定を類推適用(あくまで類推)し、賠償額の減額を認めました。
ついで最高裁平成4年6月25日民集46巻4号400頁事件で素因が問題となります。今回はタクシードライバーが後ろから衝突されて、その事故により死亡するのですが、どうやら単純に本件事故による損傷だけで死んだわけではないことが発覚します。実は被害者のタクシードライバーは事故の前の日に、車の中での居眠り中一酸化炭素中毒で脳に損壊を受けていたのです(雪が積もったせいで排気ガスが車内に蔓延したため)。この事故以前から有していた脳の損壊に、事故の被害が組み合わさったために死亡という結果が発生したというわけです。これに関してもやはり被害自体は通常損害ですから、原則通り適用していけば加害者は被害者の死亡という結果の責任を負うことになります。しかし、最高裁はここでも被害者には身体的素因があったために損害が拡大したとして722条2項を類推適用し、賠償額の減額を認めました。
さてここまでの理解だと、被害者に何らかの素因があるならば、それによって過失相殺を類推適用できそうだ、というのが単純な理解でしょう。
しかし、最高裁は、その過失相殺を類推適用できる素因に限界づけをします。
その限界づけがされたといわれるのが、最高裁平成8年10月29日判決民集50巻9号2474頁事件です。
この事件被害者は重度のむち打ち症を負ってしまいます。しかし普通の人はそうはならなそうな事故でした。なぜ被害者が重度のむち打ち症を負ったかというと、それはただ首が長いという理由だけでした…(よってこの事件は首長事件なんて言われます、被害者は女性なんだからもっとましな名前つけろよとは思うんですがね…)。最高裁は以下のように判示して身体的素因ではない身体的特徴による損害の拡大の責任は被害者ではなく加害者が負担せよ(賠償せよ)としました。
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」
(判決文は少し読みにくいですね。「けだし」は「つまり」と読むといいでしょう。)
したがって通常身体的特徴としたものが原因で被害が拡大したとしても、それをあるがままに受け入れて賠償しなければないとなります(この判決文を読む限り重度の肥満の方に関しては若干の留意が必要そうですがw)。
コメント
こっちは何時交通事故に巻き込まれてもおかしくないのでね…