いじめ騒動が非常にネット界を騒がせていますね、ひとまずは真相究明が先決でしょうが、今回の件でも思うところはちょっと違うところ。

名誉棄損の成立と免責事項

日本刑法では名誉棄損罪(230条1項)という犯罪類型が規定されており、一方で民法でも不法行為責任(709条)においても、723条にて名誉棄損における原状回復が規定されていることから当然適用されます。
では名誉棄損とは何のことでしょうか?

名誉棄損とは人の社会的評価を害することを意味します。ただここでは主観的な名誉感情の侵害では足りないとするのが民法の考え方です。当然ですが、この場合その社会的評価を害した、表現が真実だろうと虚偽だろうと関係なく名誉棄損の要件を満たします。これには憲法学説の一部に表現の自由との調整から反論があるものの、後に説明する表現の自由との調整機能もあるのでそこまで問題とならないでしょう(彼らと僕の表現の自由の価値観が異なっているので多分的外れな批評になるのでしょうが)。

すでに述べましたが、憲法上表現の自由が認められているの日本において、どれもこれも名誉棄損としてしまうことは大きな問題です、そこで日本刑法には230条の2において特例を定めています。

第230条の2
前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

これにより、名誉棄損罪の適用が否定されるのです。また、刑法の規定ですが、この考え方は民法にも準用されるので同じように不法行為責任も否定されます。


この条文から以下の要件を読み取れます
1、摘示された事実が真実であること
2、摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものであること
3、事実摘示がもっぱら公益を図る目的に出たこと
以上の三つが充たされたとき名誉棄損の違法性が阻却されるとなるわけです。

もちろん真実性の証明にと、真実かどうかに問題が残るところです。
真実性の立証に関して摘示された事実は「主要な部分」において真実であることを主張立証すればよいとされています。また真実であったかの判断は事実審の口頭弁論終結時において客観的に判断をすべきでしょう。

たとえば、あくまで一般論ですが、いじめ加害者の個人情報をネットに書き込む行為はどうなるのでしょうか?
まず、犯罪事実は公共の利害に関する事実をみなすとされています。ですから本件において公共の利害に関する事実に係るものであることの要件は充足しているでしょう。一方で問題になるのは、公益目的かどうかでしょう。ネットでの個人情報の晒し上げが公益目的を有しているかと評価できるのでしょうか?認めてしまってはネットによるリンチを認めたことになります。少なくとも法倫理として私刑の存在は許容できません。
また、真実と信じるについて相当の理由があったことを根拠づける具体的事実を認めることができるのでしょうか?
私見ですが、インターネットを調べて出てきたという情報にはそういった相当性が充たされないとするのが妥当でしょう、ネットの匿名での情報なんてほとんど嘘、いくら緩和されている真実性の証明も認められないとするのが妥当でしょう。
もちろん誤信した場合の取り扱いも問題となりますが、あまりに長くなるので、ここでは省略します。

よって、ネットで言ってたからと人の個人情報をつらつら並べたブログを上げる行為は非常に危険です。特に芸能人はまだしも、代議士と呼ばれる人々がネットの情報だけをソースに情報発信しているという昨今の状況には危機感すら感じます。


ある事柄の正しさを評価する際に重要なのはその言動、行為などの正しさもそうですが、その手続きの正しさも重要なのです。いくら正しいことをしていても、間違った方法での解決は望ましくないのです。


あと、名誉棄損だけではなく、人格権侵害やプライバシーの侵害での不法行為責任の追及も考えられますね。

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