いろいろ書こうと思ったネタがあるんですが、ちょっとした小ネタを
某所で信号無視ぬんヌんが問題となっていますが、これ信号無視かどうかでまったくもって結論が変わる可能性があるのです。
簡単にいえば被告人側に信号無視がなければ自動車運転過失致死罪(刑法211条2項)の成立が認められない可能性があり、信号無視があれば危険運転致死罪(刑法208条の2)が成立する可能性があります。
まず交差点事故でわき見運転だったけど信号無視がなかったとするならば、仮にわき見運転がなかったとしても交通事故が起きていた可能性があります。したがって義務違反行為であるわき見運転と死亡という結果の因果関係に合理的な疑いがあるとなる可能性があります。
つまりわき見運転をしていなくても事故は発生した可能性が高いのだから罰せないとなるわけ。判例としては最高裁平成15年1月24日第二小法廷判決判時1806号157頁があります。
最高裁平成15年1月24日第二小法廷判決判時1806号157頁
被告人が、業務としてタクシーである普通乗用自動車を運転し、交差点を直進するに当たり、左方道路より進行してきたA運転の普通乗用自動車に自車を衝突させて、同乗のBをして脳挫傷等により死亡させ、同乗のCに傷害を負わせた事実につき、業務上過失致死罪の成立を認め罰金40万円が言渡されたため、上告した事案で、被告人車が本件交差点手前で減速して交差道路の安全を確認していれば、A車との衝突を回避することが可能であったという事実については、合理的な疑いを入れる余地があるというべきであるとし、原判決及び第1審判決を破棄し、無罪を言渡した事例。
(TKC法律データベース事案の概要から引用)


一方で危険運転致死罪は酩酊運転致死傷罪や未熟運転致死傷罪が有名ですが、信号無視運転致死傷罪も規定されています。ただ単純に赤色信号を無視するのではなく「殊更に」無視した場合に成立するとされ、法制当時は過失による赤色信号の無視は含まれないと説明されていました。つまり赤色信号であることを認識したうえで交差点に突入して事故を起こした場合に限るとされていたのです。
しかし、最高裁平成20年10月16日第一小法廷判決刑集62巻9号2797頁はこの「殊更に無視し」の意義について興味深い判示をしました。
刑法(平成19年法律第54号による改正前のもの)208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」とは、およそ赤色信号に従う意思のないものをいい、赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も、これに含まれる。
(刑集の判決要旨から引用)


事例としては警察に信号無視を現認された被告人が自動車で逃走中に交差点に進入し横断中の人を殺害してしまうというものです。
これを本件に見ると赤色信号を無視したのはわき見運転によるものですから、交差点に進入する際に信号の規制に従うつもりで走行していたといえるので赤色信号であることの確定的な認識なくとも「殊更に無視し」に該当するとするのが妥当でしょう。

したがって信号無視かどうかで罪名が変わるだけではなく、有罪か無罪かも別れてしまうわけです。
皆様も運転中信号無視はしないように殊更な注意をば…


次はここ数年ひき逃げ事故が減った理由の一つと考えられているある現象について書こうかな

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